「あなたは連絡先を聞いてこないんだね。10人のうち9人は聞いてくるよ」
「連絡先を知ったからって一体何になるっていうんだろう?夕ご飯に何食べたとか今何してるとか、そんなことをいちいち知りたいわけ?」
「そういうガチ恋系はもちろん相手にしない。だって面倒くさいから。連絡先聞いて外で会おうって言ってくる人が多い」
「でも外で会っていったい何が楽しいんだろう?」
「えっ?」
「居心地悪くならないかな。お店が間に入ることで担保されていた交渉事とかリスクヘッジとか、全部ひとりで被ることになる。理性を開放したくて来てるのに、変なところで気を使わなきゃならなくて、僕だったら楽しめない気がする」
「でもその方が安く済むんじゃない?」
「お金の問題じゃないんだ。お店というサークルに入ることで、そこで起きたことは、今ここにある現実からは切り離される。その世界で起きたことは、今ここにある世界とは違う次元で起こった出来事になるんだ」
「…」
「だから外で会おうっていうことは、今ここにある世界の中で僕が君とそういう関係になることを意味する。僕はきっと、そんな野卑を求めている自分と君がたまらなくやるせないと感じてしまうと思うんだ」
「…」
「違う世界で出会っているからこそ、君はあんなに取り繕わない無垢な姿を僕に見せてくれるんじゃない?僕はあの世界にいる時の自分がどれだけグロテスクか知っている。でもそれでいいんだ。解放させるために世界の敷居を飛び越えているんだから。二つの世界があるから僕はかろうじて生きていける。君だってそうだろう?」
【お客様投稿記事】もし村上春樹がリフレを語ったら